倒立虚像

身支度をして散歩に出た

きれいな景色を眺めたかったから

ひとりで

 

湖を見ていると澄みきった気持ちになれるのは

そういうものだと錯覚しているからで

水面に映るぼくは

濁っていた

これもまた錯覚で

顔を上げたぼくは

太陽の眩しさに目をつむり

 

海辺を歩く夢を見た

 

視点

月は夜空でのみ光り輝く

ずっとそこにいるのに

夜が明ければみんな忘れて

こぞって日の出に心打たれるんだ

月を見た瞬間にエモショーナルだとか言って

ロマンチックを丸投げするくせに

太陽の光を見たとたんに心変わり

 

だから僕は正午に

月がきれいですね

と言いたい

影武者

あいつはどこまでもついてくる

いつでもどんなところでも追いかけてくる

僕の成功も失敗も全部見られてる

あいつは真っ黒だから怖い

だけどよく見たら僕と同じ顔をしていて

僕のことをじっと見つめてくる

やっぱり真っ黒だから

笑顔なのか泣き顔なのかも分からなくて怖い

だけど時々

こいつの暗闇に飛び込みたくなる

 

シャッフル再生

僕は今日もイヤホンをする

すべてをシャットダウンできるような気がするから

外界とはこれでおさらば

なんて気取った気分になれるのは

イヤホンをした先に違う世界があるからで

そこには無数の音楽があふれている

じゃあこれは誰がつくったんだ

君が嫌っている外界の人間じゃないか

分かったでしょう

入口も出口もないんだ

なんだか笑えてきた

迷路

四季の流れに飲み込まれて

自分の身の進展をも望む

自然は勝手に変化していくというのに

それに感化されてしまうのは

僕らの周りには自然があふれかえっているからで

それに気づくのはふとした瞬間だし

自分まで変化する必要もないことに気づくのはもっと先

自分を強く持て

だとか言う人が世界中に散らばっているけれど

ただのテンプレートで

自分というのが何か分からないし分かるはずもない

こうして僕らは堂々巡り

かくいう僕も迷宮入り